冷徹騎士団長の淑女教育
ドクンドクンと、心臓が大きく鼓動を刻んでいる。

アイヴァンが女性といるところを初めて見た。彼女が、きっと薔薇の香水をアイヴァンの上着に移した女性なのだろう。とても美しい人だった。私とは違って、大人っぽくて色気があって――。

彼女は、アイヴァンとはどういう関係なのだろう? この邸に連れてきたということは、紹介されるのだろうか? 恋人、もしくは婚約者として……。

クレアの妄想は止まらなかった。だから、レイチェルがアイヴァンの来訪を告げに部屋に来たときは、心臓が飛び出すかと思うほどに緊張した。

ところが、逃げ出すわけにもいかずどうにかアイヴァンを出迎えに行けば、女性の姿はどこにもなかった。恐らく、アイヴァンが御者に頼んで彼女の自宅に送り届けたのだろう。

女性のことを聞きたくても聞く勇気が持てないままに、その日の夜もアイヴァンは本宅に帰って行った。

上着から、仄かに薔薇の香水の匂いを放ちながら――。
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