君等の遺した最後の手紙は。(仮)

ーーところどころから高らかに鳴り響く部活の音。
ーぱーん、かんっ、かすっ、きゃーーっ

だんだん音が遠くなる。
自分のことにひたすら集中する。

次こそは、と、さっきとほぼ変わらぬ軌道を描いたサーブをしっかり打ち返し、点を稼ごうと試みる。
ブランクがあった割にはよく動けてる気がする。

自分に集中して、次の手だけを考える。
シングルスだとそれでいい。だから周りが聞こえなくなる。


結果は17-21で敗退。
それでもなかなかいい線いけた気がする。

まずは頑張ったあと、自分を褒めること。
それによって自尊心が高まって、上手くなれる。
これは中学時代のコーチの言葉。流石だ。

コーチは「技術」を教えるだけじゃない。
「精神面」も支えてくれるものなんだって…確か翠華(すいか)先輩が言ってたっけな…。
ほんとに流石だなって思う。

先輩って、1つ2つ上なだけなんだけど、すごく上の人に見える。中学時代は一個上の先輩と私たちの代はあまり仲良くなかった。
私はお姉ちゃんの存在のお陰でまあまあ仲良くできていたのだが…

その影響があるのか、私たちと後輩ちゃん達はすごく仲良しだった。
今の部長は逸木 想叶(いつき ことか)ちゃん、コトちゃんのはずだ。みんなで仲良くできてるかな、コトちゃんやみんななら大丈夫だと信じてる。

「江川さん? どうしたのですか?」
変な敬語を使う人がいる。声の方を向くと、顧問の牟田口先生が居る。どうやら少しぼうっとしていたらしい。
「体調悪いのではないですか?」
かなり低めのアルト声。
正直あんまり聞き心地のいい声ではないし、見つめていたい見た目でもない。

先輩からの噂によると、目をつけられると物凄く厄介で、差別が激しいらしい。

「全然大丈夫ですよー!ちょっとぼうっとしちゃってました。」
この先生とはちゃんと距離を置こうと決める。
「あらぁ、そうなのですね。」
「はい」

多少の人見知りが発動してぎこちなくなる。
「まぁがんばってくださいね」
何をだ?
「あ、はい…」

ーーな、なんだったんだろう…。
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