約束~悲しみの先にある景色~
「ありがとう、瀬奈ちゃん。…楽しい思い出を作る事、約束だからね?」


まるで花の様に、私が育てられなかった花の様に優しく笑ったキムさんは、私に向かって小指を出してきた。


「っ、はい。…約束です」


彼の小指と私の小指を絡める時に、少しだけ前のお父さんを思い出して身体がビクついたけれど。


1番最初にキムさんと話した時より、その症状は全然大丈夫だった。


キムさんは、怖くない。



そして、お決まりの、


“指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ます 指切った”


を大の大人と交わした後。


話は早くも、再婚の事や家の事、いつキムさんの息子さんを私達に会わせるか、等に移っていて。


「家ってどうしよう、団地じゃ住めないよね。優作の息子さんも居るし」


さっと感動の涙を拭いたお母さんが、キムさんに尋ねる。


「ああ、それなら僕の家…マンションなんだけどね、そこに住めばいいよ。ここから近いし、セキリュティはきちんとしているから」


「待って、瀬奈の転校手続きは?瀬奈、私立の桜葉(おうば)中高一貫校なんだけど…」


キムさんの答えに、お母さんがはっとする。


「…転校は、出来るだけ避けたいです」


静かに2人の話を聞いていた私も、そこで控えめに口を開いた。
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