迷子のシンデレラ

 葉山に会わないまま退院すると初めて携帯に連絡があった。

『体調は大丈夫?』
『元気な姿が見たい』
『いつなら会える?』
『会うのは迷惑?』

 それらに返事をしないまま。


 ぼんやり過ごしていると職場の人に呼び出されて会議室へ入った。

「え、私……ですか?」

 目を丸くすると呼び出した本人は頭をかいている。

 呼び出したのは平塚誠。
 同僚で一緒に働いている温和で優しい人。

「今度、転勤になったんだ。
 だから最後だし思い切って。
 榎下さんさえ良かったら僕と結婚を前提に付き合ってゆくゆくはついてきて欲しい」

 彼となら自分と釣り合わないとか、世界が違うとは思わずに済むだろう。

 この人と逃げて彼の居ないところで生きていければ……。

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