迷子のシンデレラ

「なんでも葉山商事の御曹司がいらしてるらしいの」

 噂で聞いたことがある。
 王子様のように目見麗しい好青年だと。

「恵麻ちゃんの婚約者候補じゃないわよね?」

「ヤダ。やめてくださいよ」

 先輩と軽口を交わした恵麻は何か智美に言おうとして、その口を閉じた。
 智美が目を見開いて呆然としていたから。

「そんな……嘘……」

 そこには確かにあの日の彼がそこにいた。
 マスクこそしていないけれど、背格好はとても似通っている。

 ううん。他人の空似ってこともあるわ。

 そう思い直して、午後からの仕事へ取り掛かる。
 何か伝えようとしている恵麻に気づかないまま。

 午後からの仕事が始まって、噂の的だった葉山は智美の元へやってきた。

「君は……」

「どなたとお約束でしょうか」

 経理をしながら受付業務も兼ねていた智美は今日の打ち合わせ予定表に目を通す。

「もしかして、君が朝岡物産の智美ちゃん?」

「はい?」

 初対面で馴れ馴れしい。
 いくらみんながちやほやするからって無遠慮じゃないだろうか。
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