Shooting☆Star

☆3話☆

バック宙を失敗して咄嗟に手をついた祐樹の姿に、セットの裏の通路でモニターを眺めていた百香は思わず頭を抱えた。
ツアーが始まって1週間、祐樹が綺麗に跳べたのはまだ一度だけだ。
隣で本間さんが舌打ちをする。
「ユウくん調子悪いですねぇ…」
のんびりとした調子の百香に、本間さんは苛立ちを隠そうともしない。
「調子悪いどころじゃないわよ。これで何回目よ。自分からこの振り入れてって言ったのに!」
「まあまあ、そうカリカリしても成功するわけじゃないし。あ、そろそろ戻ってきますよ。」
百香は慌てて冷蔵庫からボトルの入ったカゴを取り出し、通路の入り口に駆け寄る。
本間さんは誰も居ない楽屋のドアを開けてくれた。
「おつかれさま、拓巳。圭くん、今日よかったよ!おつかれ、秀くんのはこっち。ヒロは着替えたらインタビューあるからね。はい、おつかれ、これダイチの分。あ、待って、ユウくんは先に手首見せて。あと膝のアイシング!」
ひとりひとりに声を掛けながら、冷えたドリンクのボトルを渡す。
拓巳と圭太はスポドリ、秀はオレンジジュースで弘也は麦茶、ダイチは炭酸水、祐樹はコーラ。
ステージの後はいつも同じ飲み物を用意して、必ず名前を呼んで手渡ししている。ちょっとした儀式みたいなもので、返ってくる反応でそれぞれの調子がなんとなくわかるのだ。
素早く冷凍庫からアイシング用の袋を掴み出し、楽屋に入って行く彼らを追いかける。
近くにあった椅子に祐樹を座らせる。手首を確認する為に、手のひらを軽く掴んで、揺するように動かす。祐樹の手は大きくて、自分の手がまるで子供の手のように見える。
「痛みはない?」
「ない。」
隣にしゃがみこみ、その膝にアイスバッグを当てながら、百香は祐樹の顔を見上げた。
「ユウくんさー、振り変えない?」
「…やだ。」
ふて腐れて子供のように頬を膨らませる祐樹に、「なら、ちゃんとやりなさいよ!」と本間さんが声を荒げる。
まあまあ、本マネ、ちょっと落ち着きなよ…と、拓巳と弘也が割って入る。
「本マネ、次のインタビューは、おれ一人で行く?」
「それなら百瀬がついて行くから。」
「えっ…!?私?今から?」
インタビューには本間さんが一緒に行く予定だった。
けれど、驚いたモモの言葉は拓巳によってあっさりかき消された。
「えっ。待って、僕、今日レッスン室使いたい。」
彼らがレッスン室と言えば、本社のそれでなく、“事務所”のレッスン室のことだ。
事務所の鍵は百香が持っている。
「レッスン室使うなら、俺も行きたい。ユウも行くだろ?」
「行く!もう少しで跳べそうな気がする!!」
ダイチが賛成し、祐樹が便乗する。
明日は、久々の休みだった。デートしようって約束している。
だから今日は早く帰って、ダイチの部屋に行くつもりだったのだけど。
百香は壁に掛かる時計に目を向けた。あと5分で18時になる。
インタビューにせよ、事務所にせよ、帰宅は日付けが変わる時間になるだろう。
本間さんが諦めたような溜息をついて、わかったと小さく呟く。
「わかった、弘也のインタビューには予定通り私がついて行く。百瀬は自主練組をお願い。」
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