Liebe

「もしかして、噂のウィリアムの拾った子かい」

どう答えていいかわからず迷っていると、店主が閃いたように言い出した。
噂になっていたのか。エリーは驚いたように目を瞬かせた。

「はい、そうです、たぶん」

曖昧な笑顔で返事をする。
今のエリーに自己紹介ほど難しいことはない。
しかしアンナにもらった大切な名だ、と思い直す。

「エリーです。ウィリアムさんのお家でお世話になっています」

その言葉に店主は人の良さそうな笑顔を浮かべた。
ウィリアムとは親しい間柄なのだろうか。

「エリー……そうかそうか。時計しかない店だけど、よかったらゆっくりしていっておくれ」

その言葉のとおり、エリーはゆっくりじっくり時計を見て回った。
どれも素敵なものばかりだ。そしてにかっと笑って店主はエリーを見送った。

一度きりだと思われたそのやり取りは、その後何度も行われることになった。

菓子を売っている店の女性も、おもちゃ屋のおじいさんも、レコードを売っているお兄さんも。
皆ウィリアムの噂というものを聞いたのか、声を掛けてきた。

まるで街の人皆が家族のような、そんな雰囲気を感じた。
エリーは声を掛けられる度嬉しい気持ちが湧いていた。
羽織っていた薄手のカーディガンのポケットには、先程お菓子屋でもらったクッキーの小さな袋が入っている。

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