恋は、秘密主義につき。
到着したバスを降り、駅のロータリーをぐるりと見渡した。
タクシー乗り場から少し離れた場所で、ハザードを点滅させた黒のツーリングワゴン車が目に留まって、そっちに向かって歩き出す。何度も乗せてもらっているから間違いではない筈。

近付いて行くと運転席側から長身の男性が出てきて、私の方へ寄ってきてくれた。

「愁兄さま!」

遠慮なく飛びつけば、やんわりハグを返してくれる。

「僕の美玲は、甘えん坊だね」

そう言って髪を撫で、頭の天辺にキスを落とす、麗しのお兄さま。
白のリネンシャツを、裾はオープンにして着崩し、オリーブ色のカラーパンツにデッキシューズっていうラフなスタイルなのに。誰の視線も釘付けにする神様の御使いのごとき美貌があれば、すべて絵になってしまう。

うっとり見とれていると、クスクスと笑みが零れ落ちてきた。

「ランチに行こうか。それからゆっくり話を聴くからね」

ああ、今日は幸せすぎます。
本来の目的も遥かにすっ飛び、満面の笑顔で私は車に乗り込んだのでした。

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