恋は、秘密主義につき。
「アレが許嫁クンなのね」

戻れば一実ちゃんからの取り調べ開始。恒例です。
カウンターのこちら側で姿勢よく前を向きつつ、声だけ潜めます。

「思ってたよりスペック高そーな男、ってカンジ」

「征士君は、とても努力して、自分を高めてきた人だと思います。でもそれを鼻にかけたりしないですし、・・・私にはもったいないくらいの人なんです」

「でも美玲は佐瀬サンがいーんでしょ?」

「はい」

「なら最後までブレちゃダメよ。・・・会ってなにを話すかは知らないけど、同情なんかして流されないでね」

きっぱりと言う彼(彼女)の低めの声が、胸の奥に残響する。

大丈夫です、一実ちゃん。
私は佐瀬さんのもので。
私も。佐瀬さんから全部もらいました。

目に見えてなくてもあの人と私の距離は。目と鼻の先くらい埋まっています。
今はそれがよく分かるんです。だから。
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