恋は、秘密主義につき。
9-1
『男の立つ瀬がねぇな』

儚い笑みをふっと浮かべた佐瀬さんはそう言って柔らかいキスを落とすと、そのまま私を家に帰しました。

あれから。(あいだ)の空気や温度が変化したり、佐瀬さんが別人になったりすることもなく。
ただ。
家まで送ってもらう途中、いつもの場所で熱情に溶かされる時間が長くなって。
真っ直ぐアパートに連れ帰られる日が増えて。
週末、ママに隠しながら二人で一緒に過ごす時間の密度が濃くなって。

私を見つめる眼差しが深くなった。・・・気がします。





愁兄さまがどう伝えてくれたのか、ママはなにか言いたそうにしながらも、征士君のことはあえて触れずに見守ろうとしてくれています。

『美玲の人生なんだから、パパもママも美玲が選んだことを大事にするよ。父さんに気を遣わなくたっていいさ』

のんびり笑ってくれたパパにも感謝の言葉しかありません。

秘密の代償は小さくないことを忘れてはいません。
兄さまはあの日、私の望みを『預かる』と言いました。けれど、『許す』とも『叶える』とも言わなかった。


『その時』が来て、心残りが一つでもなくせるよう。今は自分がそうしたいと思うことを、躊躇わないと決めたんです。・・・最後の一秒まで。
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