恋は、秘密主義につき。
9-2
翌日には、私と征士君、そして早くも『俺様王子』と一実ちゃんに命名された、ふーちゃんとの三角関係の噂が社内をくまなく駆け巡ったようです。
楠田グループの親族と知られているためか、遠巻きにされているだけで直接、耳に届くことはありませんでしたけれど。

出向して早々、仕事とは全く関係のないことで存在を晒してしまったことは、征士君にはただただ申し訳ない気持ちがいっぱいで。

『レイちゃんの気が済まないなら今度、ランチでもご馳走してもらおうかな』

優しい彼は笑って、罪滅ぼしの機会をくれました。


そして当の本人、ふーちゃんの辞書には『反省』『懺悔』という文字は編集されていません。

『ぼくがこっちにいる間に、鳴宮征士を叩き潰しておかないとね』

その夜、スマートフォンの向こう側から聞こえた冷めた声は、世界征服を企むいちばん悪い人みたいでした・・・・・・。

仕事中は、セキュリティが強化された支社長室もある最上階フロアのシステム室に詰め、変則的な時間に6階まで降りてきては、『充電』だと私をハグして戻っていったり忙しそうです。

てっきり私の家に泊まるだろうと思っていたのに、しばらくは会社の最寄り駅の反対口に新しく建ったビジネスホテルから出勤するらしく、無駄な移動に時間は割きたくないんだとか。





自分を取り巻くものだけが加速していく感覚。取り残されていくような、・・・焦燥。それとも。

「・・・どした」

私をベッドに沈めて間近で見下ろす佐瀬さんの眸が、不機嫌そうに細まる。

「オレといる時に考えゴトか?」
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