そのままの君が好き〜その恋の行方〜
「では、私の無事帰国を祝って、カンパ〜イ。」


「自分で乾杯の音頭をとるな。」


苦笑いしながら、三嶋とグラスを合わせる俺。1週間のヨーロッパ出張が終わり、戻って来た三嶋から、お土産を渡したいと、連絡をもらった俺は、翌週の水曜日、ノー残業デーの日に会った。


もっとも2人きりではなく、井口も一緒。井口も一通りの実習が終わり、1人で動くようになって、その独り立ち祝いも兼ねていた。


「どう、慣れた?」


「はい、でも、まだまだ緊張してます。」


「そうだよね。私もそうだった。でも大丈夫、この誰にでも優しい先輩が、ちゃんとフォローしてくれるから。」


「なんだよ、それ。」


「だってそうじゃん。本当に誰にでも優しくてさ、だから勘違いさせられた。」


「三嶋・・・。」


「付き合ってる自分を蔑ろにして、他の男とくっついた女と、今だにグループラインでつながってて、誕生日のお祝いメッセージ送ってあげるくらいだから・・・お人好しにも程がある。」


「おい、よせよ。」


早くも酔いが回ってきたのか、毒を吐く三嶋を俺はたしなめる。


「私、悔しいんだよ。こんなに虚仮にされて、黙ってるなんて、沖田さんは優し過ぎる。私が代わりに行って、引っ叩いてやりたいよ、あの女。あんな真面目で大人しそうな顔してさ、やってること、えげつなさ過ぎ。」


「もういい加減にしろよ。今日はそんな話をする為に集まったんじゃないだろ。どうだったんだよ、出張は?」


俺は強引に話題を変える。


「うん、私は今回は本当に、通訳で行ったようなもんだから。でもウチの高い耐震性や災害に強い建築技術は、海外でも評価が高いってことが、よくわかった。私もちゃんと勉強して、通訳としてじゃなく、プロジェクトの一員として、頑張らないと。」


「そうだ、その意気だ。」


「じゃ、海外出張、これからもありそうですね。」


「もちろん、望むところよ。」


井口の言葉に、三嶋は張り切って答える。


「俺達は打倒K社、L社だ。今年こそ年末の売場はウチの商品を各社で拡大させてもらう。その為には、今からの実績作りが大切だ。井口、頼んだぜ。」


「はい。」


「じゃ、改めて乾杯しよ。私達のこれからの更なる活躍を誓って。」


「おい、明日も仕事なんだからな。ほどほどにしろよ。」


「平気平気。じゃ、カンパ〜イ。」


「乾杯。」


先輩に付き合ってグラスを重ねる井口。俺は内心ため息をついていた。
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