そのままの君が好き〜その恋の行方〜
翌日、俺は唯の会社に電話を入れた。


携帯ではなく、会社に掛けて来たことに、唯は驚いていたが、俺が


「S社の最終面接を受けさせて欲しいんだ。」


と言うと、電話の向こうで、唯が息を呑み、戸惑っている様子が伝わってくる。少しの沈黙の後、やや沈み気味の唯の声が聞こえて来た。


『それは・・・あなたの一昨日の私の言葉に対する返事っていうこと?』


「君の会社に誘ってもらったのは光栄だよ。だけど、生意気なことを言うようだけど、仕事の内容は、正直S社の方に興味があるんだ。それに、僕は、自分が就職を希望した会社の最終面接に、君の言葉を信じれば、自力で辿り着くことが出来た。恥ずかしいけど、この3ヶ月間の再就職活動で初めてなんだ。だから、自分の力で、最後まで決着を付けさせて欲しい。」


『・・・。』


「就職活動と僕達のことは別に考えて欲しい。ダメかな?」


そう言う俺に


『わかった。あの時、私はあなたに人生パートナーになって欲しいというお願いはしたけど、ビジネスパートナーの方は、出来たらって言ったつもりだから。ソウくん、応援してるよ。』


「ありがとう。それと・・・。」


『わかってる。私はこの件については、もう何も言わないから。私が口出しして、合格したって、あなたが喜ばないことくらい、わかってるし、逆に私が妨害工作をして、不合格にしても、あなたが素直にウチの会社に来てくれるわけでもなさそうだし。』


「唯・・・。」


『だから、最終面接の結果は当たり前だけど、ガチだよ。』


「望むところさ。」


俺はそう言い切った。


2日後、俺は唯の会社の本社を再び訪ねた。最終面接の為だった。


面接室でS社の人事部長との一対一の面接に臨んだ俺は


「あえて、嫌なことを言わせてもらうけど、せっかく厳しい就職活動の末に入社した会社を3年足らずで辞めた君に、何かを貫こうとする覚悟や意志はあるのかな?せっかく甲子園まで出場したのに、高校で野球を辞めてるのを見ても、疑問を覚えざるを得ないんだが。」


と言う面接官に


「野球はやり切ったと自分で、納得出来て辞めましたから、全く悔いはありません。前職につきましては、ご指摘を謙虚に受け止めさせていただきます。ですが、3年弱のキャリアに過ぎませんが、そこで得たものは、御社で働かせていただければ、必ず活かしていけると思っております。」


とハッキリ言って、勢いだけで答えてしまった。


そして、結果はその日の夕方に通知された。合格だった。
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