そのままの君が好き〜その恋の行方〜
「もっとも、わざとそういう資料をくっつけて、小うるさい議員のセンセイ方を煙に巻くというのもあるけどな。」


「別に私、そんなつもりは・・・。」


「ハハ、冗談だよ。君にそのくらいのズルさがあればな・・・もっといい官僚になれる。」


その言葉は、私の胸に刺さる。


「でもそれじゃ、桜井さんじゃなくなっちゃうんだよな。きっと・・・。」


「近藤さん・・・。」


そんなことを言われて、思わず近藤さんの顔を見てしまう。


「とにかく、この要領で、もう少しだから片付けちゃえ。」


「わかりました。」


「なんて言っても働き方改革の時代、我々はその範を垂れなくちゃならないんだから。闇雲に残業すれば、いいってもんじゃない。なるべく早く上がるんだぞ、じゃ、お先に。」


「お疲れ様でした。」


そう言うと、爽やかな笑顔を残して去って行く近藤さんの後ろ姿を、私は見送っていたけど、我に返ると、またパソコンとにらめっこを始める。


結局、私がパソコンを閉じ、席を立ったのは、近藤さんが去ってから、1時間以上経ってからだった。明日の朝一でこれを提出して、課長がどんな反応を示すか?不安はあるが、今はそんなことを考えていても仕方がない。


(明日も目の回るような忙しさなんだろうな。)


そんなことを考えながら、私は「厚生労働省」と書かれた看板が掲げられた建物の玄関を出ると、家路についた。
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