そのままの君が好き〜その恋の行方〜
こうして、私は山下公園にほど近い所にある、ハロ-ワ-クに半年間の限定ではあるが、着任した。


ハロ-ワークの職員は私のように厚労省の官僚であるが、基本的には一般職の職員である。いわゆるキャリアとノンキャリアの軋轢と言うのは、面白おかしくマスコミやドラマなどで、取り上げられることもあるが、全くないわけでは、ない。


今回の私の場合は、期間限定のいわば受け入れ側からすれば「お客様」で、周りはみんな入省年次から見れば、先輩だから、私としては、素直に教えを乞う態度に徹すればいい。だが、それでもやっかみがないわけではなく、先に実習を終えた同期の中のは、かなりの嫌がらせを受けたという人もいた。


果たして、着任の挨拶をした所長は


「まぁ、半年の辛抱だから。よろしく頼むよ。」


と聞きようによっては、皮肉めいたことを口にしていたが、と言って、それ以上の何か嫌味を言われることもなかった。


他の人は、挨拶した限りでは、みんな気さくな態度だったので、私は内心ホッとしていた。


私が担当するのは、「紹介係」という、いわゆる窓口での相談対応をする文字通りの最前線の業務。実はこのポジションのほとんどの人は非正規のパ-トさんで、正規職員は私を含めても数人しかいない。私はとりあえず、2期先輩の川越典弘(かわごえのりひろ)さんの下で、業務を学ぶことになった。


「Web申し込みの普及で、来所人数が減少傾向にあるのは事実ですが、その一方で、ハロ-ワ-クの統廃合が進み、不便になったという声も上がっています。職員の人数も削減傾向で、個人個人の業務量は確実に上がっています。求人者へのきめ細かな対応を求められる私達が、疲弊してしまっては、本末転倒のような気がします。予算削減で厳しいのは分かりますが、本省も少しは考えてもらわないと。」


「はぁ・・・。」


いきなりの言葉に、私が返事に困っていると


「別に桜井さんを責めてるわけじゃないですよ。本省のみなさんが、我々なんかと比較にならないくらいの厳しい業務をこなしてらっしゃるのもわかってます。でもせっかくこうして現場に期間限定とは言え、配属された以上、現実を見て、本省に戻られた時に、幾ばくかの声を上げていただければ、それは意義がないことではないと思います。」


川越さんは、私を真っ直ぐにみて、言った。
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