そのままの君が好き〜その恋の行方〜
「すみません。桜井さんみたいにキレイな人と、話をするのに慣れてないから、どうしても緊張しちゃって・・・。」


「えっ?」


「僕、中高とずっと男子校で、それですっかり女性が苦手になっちゃって・・・。大学入ってから、さぁ女の子と話してごらんって言われてもなかなかうまくいかなくて・・・。今の職場も、ご覧の通り、ほとんど既婚者のパ-トのおばちゃんばかりで・・・。」


そう言って照れ笑いと苦笑いが入り混じったような表情になる川越さん。


「あっ、これってやっぱりセクハラになるんですかね?桜井さんにキレイだって言っちゃったこと。」


「・・・。」


「女性に、女性としての魅力を、ほめたり伝えたりするとセクハラっておかしいですよね?」


「いえ、それは時と場合によると思いますけど・・・。」


なんか変な方向に話が向き出し、私は戸惑いながら答える。


「少子化だと騒ぎながら、ハ-ドルを上げて、男女がどんどん付き合いにくい世の中にしてるって、本当におかしいと思います。これじゃ僕みたいな冴えなくて、なんの魅力もない男なんて、生涯結婚も恋愛も出来やしませんよ。少子化を担当する厚労省の役人の端くれとして、憤りを感じます。」


「川越さん・・・。」


さすがにたまりかねて、声を掛けると、川越さんはハッとしたように私を見た。


「す、すみません。僕、何を熱く語っちゃってるんだろう。大丈夫です、桜井さんのことは、ホントにキレイだと思ってますが、それで僕がどうのこうのなんて、大それたことは全く考えてませんから。どうか御安心を。」


「・・・。」


「さ、行きましょう。」


と言って、そそくさと立ち上がる川越さんを、私は唖然として眺めていた。


ただ川越さんのペ-スは、午後になっても変わらず、必要なことも必要でないことも一方的に喋りまくり、最後に


「明日もう1日、僕に付いてもらって、今度は一緒に窓口に座ってもらいます。そして明後日からは1本立ちです。」


「えっ、もうですか?」


「はい。桜井さんがここにいられるのは半年だけです。その間に身に付けなくてはならない業務は、窓口業務だけじゃありませんから。時間はあまりありませんよ。」


と一方的に通告して、この日の研修は終了した。そして私は、必要以上の疲労感を抱えて、帰宅の途に着いた。
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