そのままの君が好き〜その恋の行方〜
この日は、朝から4箇所の取引先を回るハードスケジュール。1日中、三嶋と一緒だ。


果たして三嶋は、1箇所目の作業が順調に終わって、ホッとしたのか、いつにもまして、舌好調だ。


「でも、沖田さんに彼女いないっておかしいですよ。」


「なんで?」


「だって甲子園球児でしょ。ひょっとして、モテまくって、感覚がマヒしてるんじゃないですか?」


全く甲子園球児イコールモテるという短絡的な発想には、ホトホト参る。俺は内心ため息をつく。


「本当に気になる人もいないんですか?」


「ああ、隣に座ってる奴に彼氏がいるって聞いて、ガッカリしてるけどな。」


あんまり煩いので、ちょっとからかってやると、三嶋は驚いたようにこちらを見た。


「私はダメですよ。彼氏一筋なんですから。困ります、そんなこと言われたら、一緒にお仕事出来なくなっちゃいます。」


そう言って、顔を真っ赤にして俯く三嶋。可愛い奴だ。


「冗談だよ。そのマシンガントークに、ずっと付き合えるお前の彼氏には、かねがね敬意を持ってるんだ。俺にはムリ。」


ちょうど信号待ちになって、俺はそう言って、三嶋の顔を見て、ニヤリと笑う。


「酷い!沖田さん、それどういう意味ですか?」


今度は一転、ふくれっ面になって俺を睨む三嶋。百面相か、お前は。


「悪かったよ、許せ。」


「許せません。お詫びのしるしに、お昼ご馳走して下さい。」


「何、言ってるんだよ?昼は会社の経費だろ。」


「じゃ、晩御飯。」


「あれ、彼氏一筋じゃないの?他の男とメシ食うのは、いいわけ?」


「沖田さんはいいんです。仕事上の先輩ですから。」


「勝手な言い分だな。彼氏に言いつけるぞ。」


「もう!沖田さんが、こんな意地悪な人とは知りませんでした。せっかく今度同期の子、紹介してあげようと思ったのに。」


「せっかくだけど、遠慮しとく。今は仕事が恋人、当分彼女はいいよ。」


冗談めかしたけど、これは本心だった。
< 37 / 177 >

この作品をシェア

pagetop