そのままの君が好き〜その恋の行方〜
ハローワークでの日々は、充実していた。自分でも意外だったのだが、本省で、いかにも「THE官僚」と言った雰囲気で、データや資料作りに追い回されるより、こうして人と触れ合う仕事の方が、やり甲斐を感じ、向いているのかもしれないなんて、感じ始めていた。


「桜井さんは、この仕事、いけますね。」


いつまで経っても、敬語のままの川越さんが、ある日こんなことを言ってくれた。


「そうですか?ありがとうございます。」


「僕はまだ、ここに来て4年目ですが、本省から実習で来られた方で、桜井さんほど真摯に、僕達と同じように真剣にこの業務に向き合ってくれた方を1人も知りません。」


「川越さんにそんな風に言ってもらえるなんて、とても嬉しいです。」


「周りのパートさん達も、みんな言ってます。桜井さん、このまま、ここでずっとやってくれないかなって。」


「本当ですか?」


「ええ。でも、それって桜井さんに失礼ですよね?」


「えっ?」


川越さんは、厳しい表情で、私を見る。


「桜井さんは、ここで仕事をする為に、厚労省に入ったわけじゃない。もっと大きな夢と理想を抱いて、国の中枢で活躍する為に、厚労省に入られた。とにかく役人になれればいい、そんな僕達とは次元が違う。キャリアの方と僕達は違うんです。」


「川越さん・・・。」


いつにない、川越さんの口調と言葉に、私は驚く。


「桜井さん、お疲れ様でした。」


「えっ?」


「桜井さんの相談係としての勤務は、今週一杯です。」


「・・・。」


「来週からは、後方業務。つまり幹部クラスの業務の研修に入ります。あなたが本来、ここで学ばなきゃならない業務です。」


「・・・。」


「詳しくは、あとで次長から説明があるはずです。短い間でしたけど、一緒に仕事をさせていただき、光栄でした。ありがとうございました。」


そう言うと、私に一礼して、川越さんは離れて行った。そんな彼から、今まで感じたことのない冷たさを感じて、私は呆然と、その後ろ姿を見送っていた。
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