そのままの君が好き〜その恋の行方〜
「沖田、そろそろ行くぞ。」


2年先輩の金沢康彦(かなざわやすひこ)さんに、そう声を掛けられた俺は


「はい。」


と返事をすると、金沢さんの後について、部屋を出た。これから、先輩と2人で得意先周り。今日も1日の始まりだ。


俺の名前は沖田総一郎(おきたそうちろう)。この会社に入って2年目のまだまだ新米営業マン。


住宅建設から賃貸管理、医薬品や健康食品まで扱う、守備範囲の広いこの会社で、俺が配属されたのは、会社の名前を一躍メジャーにしたラップを始めとした食器洗剤等の日用品を担当する部署だった。


取引先に定期的に伺って、商品の陳列やメンテナンス、更には新商品の売り込みや説明を担当するラウンダーと呼ばれる業務が、俺の仕事。


入ってすぐに、俺の教育係兼相棒となった金沢さんに、いろいろ教わりながら、あっと言う間に1年が過ぎた。


日用品の知識なんか、全く持ち合わせていなかった俺もいつの間にか、1人で行動出来るようになっていた。


ただ、今日は新商品の紹介や、時期柄、人事異動で、取引先の担当者の顔ぶれも変わるところがあるので、久しぶりに一緒に行動することになっていた。


「そう言えば、今から行くスーパーの担当者も変わるんだよな。」


ハンドルを握る俺の横で、金沢さんが言う。


「ええ。今度は大阪の方の店らしいですよ。」


「そうか、大阪かぁ。」


「この業界、異動は付き物だし、俺は独身で身軽だから、なんてことないけど、沖田くんに会えなくなるのは、寂しいなぁ、なんて言ってもらいましたよ。」


俺は、気さくなその取引先の担当者の顔を思い浮かべながら、言った。
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