残念少女は今ドキ王子に興味ありません

じゅうはち

「あ、いたいたシズル!」

 聞き慣れた声に振り向くと、何故か胸をぱふ、と叩かれた。

「…何やってんの?」
「いや、急に振り向くから。肩叩こうと思ったんだけどね?」

 そう言って肩を竦めるリコに、首を傾げる。

「名前呼ばれたら振り向くでしょ?」
「いや~?アンタは全然気付かないよ?」
「ええ?そんなハズは…」

 言いかけて、ふと思い当たった。
 あ、そうか。

「昨日イヤホン落としちゃったんだよね。だからかも。」

 そう言って残った片方を見せると、リコが目を丸くした。

「いつもこれ着けてたの?」
「うん、登下校の時は大体ね。」
「ちょっと着けてみてくれる?」

 言われて、完全コードレスの片方を耳穴に押し込む。
 ちょっと高かったけど、軽くて小さくて疲れにくくて、要するにお気に入りだったのになぁ…。たぶん、昨日線路に落としたんだと思う。
 そんな事を考えてる私をマジマジと見つめて、リコが腕を組んでへえ~と感心したような声を出した。

「なるほど、そういう事か。」
「? そういう事って?」
「うん、まあ、また後でね。とりあえず行こう?遅れちゃうし。」

 駅舎の時計は8時。
 ここからバスで10分だから、確かに急がなきゃだ。
 バス停に行くと、同じセーラー服の女子生徒が列をなしていた。
 その後ろに揃って並び、バスを待つけど一回で乗れるかな。
 この駅始発のバスだけど、人数が多いからかなり混雑しそうだし、なんか、朝から疲れそうで嫌だなぁ…

「ね、リコ。このバスって、一時間早かったらまだましかな?」
「ん?あー、どうだろう?乗ったこと無いからわかんないけど、少しは少ないかもね。」
「そっか、じゃあ明日は早く出よう。それか、帰り歩いて時間計ってみようかな。」
「うわ、出たよ、脳筋。バスで10分を、歩いたらどんだけかかると思ってんの?」
「え、うーん…1時間ぐらい、とか?」

 大体時速6キロで歩けるから―――なんて考えてるのを、リコが呆れて半眼で見てくる。
 そもそも、私が敢えて一つ向こうの駅で降りて20分歩いて来ている事も、リコに言わせるとありえないらしい。途中にいいカンジの公園とかあって、絶好の散歩コースなんだけどなぁ。

「あのね、一時間とか、通学で歩く距離じゃないから。」
「えー、うーん、じゃあやっぱり明日からも“外苑前”にするかなぁ…」
「あー、それなんだけどさ、しばらく“外苑前”使うの禁止にするから。」
「へ?」

 言ってる意味がわからない。
 そもそも、今日この“下坂手”の駅で降りたのは、朝早くにリコからメッセージをもらったからだ。

『大事な用事あるから、“下坂手”で降りてくれる?』と。

 大事な用って何だろう―――?
 その事も含めて聞こうとした時、不意に背後で「きゃあっっ!!」という歓声が上がった。
 驚いて振り向くと、直ぐ後ろで肩を寄せ合うようにスマートフォンを覗き込んでた、同じ学校の生徒3人と目が合う。バッジが赤いから2年生(上級生)みたいだ。
 先輩方は、私の顔を見て、一拍おいてから盛大に目を見開いた。

「えっ? えっ、嘘っ…」
「まさか、本人?!」

 3人が3人とも、画面と私を何度も見比べている。
 えっ、何?
 戸惑う私の隣から、リコが身を乗り出した。

「何なんですか?スマホに、なにか?」
「えっ、あー、えっと…」

 顔を見合わせてから、真ん中でスマートフォンを持った先輩がそれを差し出す。
 表示されていたのは、動画サイトに登録された、人気の動画を集めたチャンネルだった。

 日付は、昨日。
 そしてその動画に付けられたタイトルは。

“転落事故! 救出した男子高校生がイケメン過ぎるwww”

 マジか―――……
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