残念少女は今ドキ王子に興味ありません

にじゅうご

 ―――サクッ

 ―――サクサクッ

 ―――サクサクサクッ

 一口サイズのウエハースが、どんどん2人の口の中に消えていく…って、もう半分以上無くなってない?

「あのぉ…私の分…」
「ん?何?」

 ニッコリと笑う2人の圧がスゴイ…。
 はい、すみません。
 私が悪うございました…。


 翌日の昼休み。
 お弁当を食べた後、デザート代わりに昨日買ったウエハースを出したのが大きな間違いだった。

「レイちゃんお気に入りの店で買ったんだ~。昨日1袋だけ残っててさ。」
「…そのお店、何処にあるの?」
「ん?レイちゃんちの近、く…」

 しまったと思った時には遅かった。
 ユウキの周りの空気が―――いや、ユウキだけじゃなかった…。
 6月だっていうのに、ブリザードが吹き荒れたよ!!

「全く、なんでそんなに危機管理能力欠如してんの?」
「だよねー、寄り道とかする? 昨日ちょっと怖がってた風だったのに、演技だったの?」
「えっ、いや…」
「シズルに演技なんか出来るわけ無いじゃん?脳筋なんだから。」
「あー、そうか。“喉元過ぎたら”、ね。」
「そうそう。」

 うう、何か酷い事言われてる。確かに忘れてたけどさぁ…。

「で?」

 最後の1つ(!)を口に放り込んで、ユウキが半眼で聞いてきた。

「まさか、歩いて行くわけじゃ無いよね?」
「え?や、だって他に…」
「何言ってんの。“下坂手”から乗って、“外苑前”で降りればいいでしょ?」

 あ、そうか―――

 思わずポンと手を打ったら、揃ってため息をつかれた。
 何よー、何だよー、アヒル口しちゃうよ?
 まあ、寄り道した事は悪かったけどさ。
 “外苑前”は、呼び出されたんだから仕方ないじゃん?

 昨日、あれから家に帰ると、母が怖い顔して立っていた。
 何でも“鉄道警察”(!)とやらから電話があったらしくて、ちょっと事情を聞きたいから来て欲しいと言われたそうだ。
 で、私に電話をかけたのに、一向に出なかった―――からなんだけど。

「シズルって、かけても出ないよね?携帯が不携帯状態。」
「えー、だって授業中鳴ったら困るじゃん?」
「そうだけどさ、それでもよ。」

 実は四六時中マナーモードになってるせいで、メッセージなんかも結構後から気付く事が多い。
 自分でも気を付けなきゃな~とは思ってるんだけどね…。
 まあ、そんな訳で、今日母と“外苑前”で待ち合わせてるのだ。また出ないと困るから、今日はスマートフォンをスカートに入れとく様に厳命されて。

 薄いったってさぁ、邪魔よ、これ?
 いや、入れてるけどね?
 晩ご飯抜くよ?って脅されたから…

「ところで、今日はその“彼”も来るの?」
「え?いやー、それは知らないけど…」
「来るといいねぇ…“貢ぎ物”、受け取ってくれたかしら~?」

 “貢ぎ物”って何? “お礼”だってば!

 によによと笑うリコを睨んだ時だった。
 スカートを揺らして、スマートフォンがブブブ―――と音を立てる。慌てて取り出し、画面を表示して驚いた。
 そこにはベトナムにいるハズの、“レイちゃん”と表示されていたのだ。


『急にゴメンね~』

 と言うレイちゃんの声は、ちょっと遠いカンジがした。
 所謂、ネットを通した無料通信アプリの通話機能を使ってるせいかもしれない。

「今昼休みだから別に良いけど、どうしたの?」
『あー、うん、ちょっと、ね…』

 サバサバ系のレイちゃんにしては歯切れが悪い。
 スマートフォンを耳に押し当てたまま、何だろうと首を傾げると、レイちゃんがフーッと息を吐いた。

『シズル、さ。“篠崎”さんと、知り合いなの?』
「えっ?!」

 思いがけない人の名前に、思わず大きな声を出してしまう。

『あー、いや、その、“篠崎”さんから連絡があってね? 昨日、彼に炭酸水…「えっ?」』

 えっ?ちょっと待って…頭が混乱してきた。
 “彼”に?

「あの、レイちゃん、は、その…“篠崎”、ていう人と、知り合いなの?」
『ん?うん…まあ、会社の同期で、上司?』
「ええっ?! それって、レイちゃんのマンションに住んでる篠崎さんの事?!」
『そうだよ、まあ、同じマンションになったのは偶々だけど。』
「えええっっ―――」

 どういう事?!
 同期で上司って、じゃあ“オジサン(レイちゃんゴメン)”なんじゃん?
 てか、人違い?しちゃった?!

『あー、ちょっと待って。彼にって言うか…えーと、シズル的には、誰に渡したかったの?何か、お礼がどうとか…』
「あー、えっ、どうしよう…その人、何か言ってた?」
『ん?うん、えーっと、息子さんが何とか…』
「ムスコさん?」
『そう、アンタと同い年だって。あ、じゃあ、その息子さん宛てなの?』
「えっ、えーと…」
『違うの?』
「いや、息子さん…多分、そう、かな? そこに住んでる、なら…」
『あー、うーん…』
「ちなみに、名前は?」
『え~、それは聞いてないんだけど。んー、とりあえず、息子さん宛て、なのね? 何で知ってるの?』

 うう…言わないとダメ?ダメよね~、わざわざ仕事中に電話してきた位だもんね…。
 仕方なくかいつまんで、というか、一昨日駅で電車から落ちた事だけ伝えた。これはお母さんも知ってる事だしね。

『何それ、何で言わないの?』

 レイちゃんの声が低い~っっ。でも、日本にいないんだからしょうがないじゃん?
 何とか宥めたレイちゃん曰く、その“篠崎”さんは、今は離婚して“お一人様”なんだそうだ。
 昨日、覚えのない荷物を受け取って、困ってあの酒屋さんに足を運んだらしい。そこで、昨日炭酸水を買ったのが私で、“同期で部下”のレイちゃんの姪っ子が犯人(?)だと判明したらしい。
 そういや、書くものなかったから、もらったメモ用紙使ったなぁ…と思い出す。まさか、そんな事でアシがつくとは。

『3日ぐらい、熱出して寝込んでたのを、寮に入ってる息子さんが看病に来てくれてたんだって。優しいよね。その時にすれ違ったんじゃない?』

 確かに優しい人なんだろう。
 見ず知らず―――いや、顔見知り?程度の私を、線路に降りて連れて上がってくれた位だ。

『じゃあ、息子さんに渡して貰うよう、伝えとくね。』
「あ…」
『ん?』
「や、ううん、…ヨロシクお願いします。」
『はい、お願いされました。じゃ、またね。』

 ふふ…と微かな笑みを残して、レイちゃんが電話を切った。
 その画面をジッと見つめる。

 「あ…」の続きを。
 私自身、考えついてなかった。
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