一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約

「あぁうん。双方ご納得いただけた貴重な案件でした。高峰さんもありがとう」

 そういえば、職場にいる時は、苗字で呼び合うことになっている。少し前に、職場で呼び捨てにしたら、「愛海さん達もそうですし、苗字で呼んでください!」と美月に説得されてしまったのだ。

「いえ。よかったです。先生はまだお仕事ですか?」
「いや、一緒に帰れたらいいなって、戻ってきました……」

 そう言うと、彼女の顔がみるみる赤く染まった。照れているのか、慌てて俯く。彼女の一挙一動が愛おしい。

「す、すみません。あの、今日は実家に呼ばれていて……。お夕食は冷蔵庫に沢山作ってますので、召し上がってください……」

 断られてしまった。

 だけど、ごめんね、美月。
 君を諦められない。

「そっか。ご実家まで送ろうか?」
「いえ! あの、結構です。ち、父の車で帰宅することになっているので……」

 なるほど、所長め。徹底的に邪魔してくるなぁ。

「じゃあ今日はご実家に泊まる? 家族水入らずで過ごしておいで」
「ありがとうございます……」

 そこでシュンとされると、男は期待してしまうものだよ。本当は帰ってきてほしい。何もしないから、ただ側で眠りたい。だけどそれは言わない。

「その代わり、明日、午前十時、事務所の玄関ホール集合ね」

 君の明日一日を、俺に、ください。
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