一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約


「……先生?」

 可愛らしい鈴のような彼女の声。

「は、は、晴正さん!」

 下の名前で呼び合う関係になりたい。そんな願望が叶った夢を見ているのか。

「こんなところで寝たら風邪ひきますよ! もしかして一晩中お仕事してたんですか?!」

 彼女の声音がプリプリ怒り出した。怒っていても可愛い。彼女をお嫁さんにしたら、こうして叱ってもらえるんだろうか。

「は、晴正さん! 起きてください!」

「……みつき……」

「はい、そうです! 美月です! 私のせいで先生が風邪を引かれたら、パラリーガル失格です! おーきーてーくださーい!」

「……ん? ……んん……夢じゃない?」

 耳元で叫ばれてようやく覚醒した。仕事をしていたはずが、いつのまにか寝ていたようだ。仕事部屋の机に突っ伏して眠っていたようで、彼女に寝顔を見られたのだと思うと恥ずかしかった。

 だが、寝起きらしくパジャマのままの彼女が、とても怒った顔をしていて、瞬時にそれどころじゃないと悟る。

「おはようございます。西園寺先生。今すぐベッドで寝てください!」

「……おはよう。今何時?」

「まだ午前5時です! お仕事ずっとされてたんですか? わたしの寝相が悪かったんですか?! ご自宅にいるときくらいベッドで寝ないとダメです! こんなことなら私出て行きます!!」

「だめだ!!」

「!!」

 俺の身体を思って叱ってくれた彼女が、恐らく結構本気で放った一言に、全力で食い付いた。思わず彼女の腕を引き止めるように掴んだので、大変驚いた顔をしている。

「あ、ご、ごめん……」

「いえ……」

「あの……ね、寝ます。仕事が気になって、眠れなくて。だけど今から寝る。ベッドで寝る。美月と寝る。だから、何処にも行かないでくれ。……いい?」

 
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