一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約
「き、着替えてきますッ!」

 私は晴正さんの腕からなんとか抜け出して、寝室から光の速さで逃げた。

 ベッドの上で抱き締められながら、耳元で囁かれる……なんて、漫画やゲームで見たことのある憧れシーンですけど! ゲームでは、さらっと文章で描かれて、次へボタンを押したら、すぐに次の場面になるわけで!

 晴正さんの厚い胸板と力強い腕。そして男の人の匂い。寝起きのイケメンは色気もあって、初心者には対応不可能!

 私は一人、自室で真っ赤になりながら、相当な時間をかけて着替えと外出の用意をしたのだった。





「……分かりました。30分後には事務所に到着出来ると思います」

 自室からリビングへ行くと、晴正さんが真剣な面持ちで電話していた。どうやら仕事のようで、すでにスーツを着て外出準備をしている。

 電話を切るや否や、とても申し訳なさそうに私を見て頭を下げた。

「ごめん! 買い物は今日難しそうなんだ……。クライアントからの急な呼び出しで……今から事務所に行ってくる」
「お仕事なら仕方がないです。私こそ、ご飯の準備もせずすみません」

 私の言葉で怒ってないと悟ったのか、晴正さんはにっこり微笑んだ。

「ありがとう。晩御飯もたぶん難しいから適当に食べててね。これ、家の鍵」

 言いながら先生は身支度を整え、家の鍵を私に手渡した。
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