一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約
「食器とか全然なかったでしょう。昨日一人で買い物させちゃったよね。ごめん」

 食後に淹れたコーヒーを飲みながら、晴正さんが言った。

「いえ! 実は昨日、愛海さんのお宅に伺っていて、あまりお買い物は出来てないんです! ……あの、それで……」

「俺たちのこと、言っちゃった?」

「……はい。申し訳ありません……」

「じゃあ俺から涼にも言っておくよ。結婚する2人の間に隠し事があったらいけないし」

 その言葉に思わず息を飲む。仮にも偽装ではあるが、こうして一緒に暮らすことになった晴正さんに、私は隠し事をしている。

(いつか全て打ち明ける日が来るのかしら。いえ、来ませんね。だってこれはひとときの夢)

 私と晴正さんは本当に結婚するわけではない。晴正さんみたいな素敵な方には、もっと経験豊富で美しい女性がお似合いだ。

 そこまで考えて、何故か、ズキンと胸が痛む気がした。

「明後日の午後は何も予定なかったよね?」
「あ、はい。確か、午前にトナミ製薬と打ち合わせがありますが、午後は何もご予定はなかったかと。」

 晴正さんがニンマリする。悪戯小僧のような表情だ。

「じゃあ俺は昨日の休日出勤分として半休取得するよ。美月も午後から休みを取って、2人で買い物に行こう。」
「え! 私もお休みを?!」

 他の弁護士達は普通に代休を取得しているが、仕事熱心な晴正さんが休日出勤を盾に休むなんて前代未聞。そして私まで一緒に休んだりしたら、事務所内で噂になりそうだ。

「事務所内で迫られるのが一番困るんだ。だから、まず牽制。美月と俺がデートする仲だって、事務所の皆に勘付いてもらいたいんだ。あと、買い物は二人でした方が荷物が多くても楽だろ?」
「は、はぁ……」
「とにかく俺が美月にゾッコンだって印象付けたいから、よろしく頼むよ! もし美月に何か言う子がいたら、俺が守るから」

 かくして私達は、事務所内でも恋人演技が必要となったのだった……。やっぱり私には荷が重い気がします。
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