一途な敏腕弁護士と甘々な偽装婚約


「お疲れ様。お茶でもいれるよ」
「あ、ありがとうございます」

 ぎこちない距離を感じる。このまま、私は婚約者をクビにされるんだろうか。

 まだ恋心に気付いたばかりなのに。

「み、美月!」
「は、はい……」

 改まった様子の晴正さん。振られたらどうしようと構えてしまう。

「……抱き締めても……いい?」
「え?」

 思いもかけないお申し出に、目が点になる。お出かけ前のハグを今日はしていないから? そ、そんなに練習熱心なのですか?!

「……病院でもしませんでしたっけ?」
「うっ! た、足りなくて」
「なるほど!」

 そんなの大歓迎ですよ! 

 そうして私は自ら、彼の胸へ飛び込んだ。ぎゅっと腕も回してみる。

(気付いていますか? 私、晴正さんが好きです。初めて男性を好きになったんですよ? 会いたかったです)

 心の中で、素直な想いを告げてみる。腕の力が自然と強まった。

「みみみっ、美月さん!?」

 きっと私の顔は真っ赤だろう。でも止まらないのだ。想いが溢れて止まらない。だからあと少しだけ。

 すると晴正さんが、いつもよりきつく抱き締め返してくれた。心臓の音がバクバク聞こえる。私の音、かな。

 嬉しくて涙が出そうだ。暖かくて、大きな胸板。晴正さんの匂いがする。

(無事でいてくれて、本当によかった……!)
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