legal office(法律事務所)に恋の罠
「夢谷って珍しい名前だと思ってたけど、やっぱり和奏のお父様だったんですね」

「夢谷検事も人が悪い。こんな綺麗なお嬢さんが娘さんで、しかも奏の婚約者なんて知りませんでしたよ」

意外にも、直美と直泰は、慎之介と顔見知りというだけでなく、軽口を叩けるくらい親密な仲のようだ。

「和奏、夢谷検事はね、司法試験に大学時代に合格した娘がいて、調停や裁判では負けなしなんだって、いつも自慢してたのよ」

「そうだよ。直美を見て、いつも"同じくらいの年齢の娘なんだが娘の方が可愛い"って言って、デレデレしていたし」

他人から初めて聞かされる言葉の数々に、和奏は驚きと動揺を隠せない・・・。

10歳の和奏が知る父親は、厳格で、笑わない、そしていつも大切なものを取り上げてしまう、大嫌いな存在だった。

離ればなれになって再会した過去5回だって、笑っていたことは一度だってなかった。

「こう見えてね、夢谷検事、裁判所や検察庁ではツンデレで有名なのよ。噂だと、スマホの待ち受けも、娘さん・・・、和奏だったね、の大学の卒業写真らしいよ」

直美に耳打ちされて、和奏は更に驚く。

立ち尽くす和奏の気持ちも知らず、呑気にその場の空気を濁す柔らかな声がテーブル周囲に響いた。

「ねえ、パパ、私おなかが空いたわ。桜坂の奥様とお食事してきてもよろしいかしら?直美ちゃん達も今来たばかりでしょう?一緒にいきましょうよ」

マイペースな和奏の母、晴子は、桜坂の奥様と直美、直泰を連れて、料理を取りに行ってしまった。

「私も少し、挨拶に行ってくるよ」

桜坂会長が立ち去ると、残されたのは、山崎夫妻と夢谷慎之介、奏と和奏だけになってしまった。


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