legal office(法律事務所)に恋の罠
「当ホテルのウエディングプランナーが提示したプランにご満足頂けましたか?」

「ええ、この美しい庭園を持つホテルで結婚式を挙げるのが彼女の・・・綾の夢でしたので」

"彼女"という主語を"綾"と言い直したのは、小池の気遣いだろう。

プランナーと綾がいなくなったブライダルサロンの一室で、奏を待っていた小池は、奏が何を聞きたいかを、すでに察しているようだった。

綾が気を効かせたのか、小池が気を遣ったのか、小池は一人で奏を待っていた。

「それで、桜坂社長は何か僕に聞きたいことがあるんですよね?それはお仕事の話ではないと捉えても構いませんか?」

そう言うと、

小池は、可愛らしい顔を傾けて微笑んだ。

「ええ、ほんの少しで構いませんので、私にお時間を下さい」

奏も同じように微笑みを絶やさずに言う。

「夢谷弁護士・・・、いや、和奏さんとは、かなり、親しい関係でいらっしゃるんですよね?」

小池は、ゆっくりと頷くと、

「・・・ええ、ご想像通り、大学1年から2年間、和奏さんとはお付き合いさせて頂いていました」

と、言った。

「しかし、別れてからは6年間、お二人は1度もお会いすることはなかったと伺いましたが?」

「ああ、和奏は、失礼・・・。夢谷さんは、僕らのことも桜坂社長に話すことができるようになったんですね・・・。よかった・・・。」

小池は俯くと、ホッとしたように溜め息をついた。

「どうして・・・別れたんですか?」

「彼女は一方的な僕の好意を、真正面から受けとめてくれた・・・。理不尽な攻撃からも、守ってくれようとしたのに・・・僕が・・・僕が、逃げ出したんです」

「理不尽な攻撃・・・?」

「ええ、あの頃の僕は心を壊しかけていた。大切な場所と思い出を壊されそうになって・・・」

泣きそうな小池は、それでも笑顔を壊すまいと痛々しく口角を上げる。

「和奏の側にいるだけで、彼女の視線を独占するだけで、剥き出しの悪意が僕に迫ってきた・・・」

「悪意、ですか?」

「宇津井洋士・・・。彼の理不尽な攻撃に、僕は、和奏を置き去りにして、尻尾を巻いて逃げ出してしまったんです・・・」

宇津井洋士・・・。

それは、奏もよく知る人物の名前、だった・・・。
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