legal office(法律事務所)に恋の罠
「その頃の私は、父親に虐げられていた日々を思い出すようになっていました。自分に関わる人全てが"気に入らない"というだけで排除される辛さ・・・。やっと、やっとみんなが落ち着いていたのに・・・」

和奏の全身がカタカタと震え始めたのを見て、奏は彼女の体を向かい合わせると、ギュッと抱き締めた。

「辛かったな。大丈夫・・・。今度は俺が守るよ。あんな馬鹿に、何度も和奏を傷つけられてたまるか」

私から俺、和奏さんから呼び捨てに変わっている。

そんな奏の男らしさに、和奏は、小池とは違う安心感を感じた。

あの頃の和奏は力もなく、山崎弁護士以外の、何の後ろ楯も持たなかった。

今は違う。

世界を相手に戦う、奏という心強い味方を得た。

"この人なら頼っても大丈夫"

気づくと和奏の目から涙がこぼれていた。

物心ついてから、涙を流したのは初めてかもしれない。

和奏は驚きながらも、抱き締めてくれる奏の胸を借りて、ひとしきり溢れる涙への感動に浸っていた。

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