レンダー・ユアセルフ





誰のせいだと思っているのか。

過去に自分が犯した罪を省みることもなく、こうして平気な面持ちで自分の前に立つ男は一体なんだというのか──彼女は唇を噛み締め、肩を震わせる。



曲が変わる節目のとき、あくまで礼儀的な形式に倣って彼の手から逃れる。そして一歩後退する。

ドレスの裾を掴んで優美に腰を屈めた彼女は、国王である父をはじめ家族のもとに向かうべく踵を返すと見せかけて──






「アンタの大好きな可愛い女に毒でも盛られて早く死ね」







まるで楽しいひと時をありがとうございます、とでも言うかのような表情でそんな乱れた言葉をぶつける器用ぶりを披露した。



当然遠巻きに見つめるチューリア国内貴族の人間は誰ひとりとして気付かない。

不意打ちの口攻撃を受けることとなった当のジーファはというと、一度大きく瞠目してから丸くなった目を眇《すが》め、堪えきれないといった表情で腹を抱えて笑い転げたのだった。




< 10 / 162 >

この作品をシェア

pagetop