レンダー・ユアセルフ



ミーアの母が城仕えしていたならば、きっと彼かの女中と同年代だろう。彼女が亡くなってしまったことで悲嘆に暮れるジョシュアに根掘り葉掘り尋ねることは憚られ、代わりにミーアに訊いてみようと思い立つ。

ほんの、出来心ゆえだった。



「ミーア。ジョシュアがよく懐いていたという、女中の女性を知らない?もう亡くなってしまったと聞いたけど…」



その瞬間。これまでの饒舌が嘘かのように口を閉ざした彼女を見て、つうと背筋に冷たいものが走り抜けた気がした。



「……それは」



彼女の唇がわななくのをアリアナは目撃してしまう。ミーアのその仕草だけで、彼女と例の女中との関係を突き付けられた気分だった。

全く関係の無い人間のことを口にするだけで、こんなにも動揺してしまうことは無いだろう。

アリアナは考え無しに口走った先の自分に対し、後悔の念で一杯になっていた。






「それは」

「ミーア!ごめんなさい、本当にごめんなさい…。さっきの質問は忘れて欲しいの」

「いいえ、マダム。もう幾年も過ぎたのですから…わたくしのことを気になさる必要はございません」



久方振りに「マダム」と呼ばれたことで、心を揺さぶられたアリアナである。





その呼び方はこれまで懐いてくれていたミーアとの間に、決して壊すことの叶わない壁が聳えるのを認識せざるを得ないものだった。


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