レンダー・ユアセルフ



「もう夜半にございます。今夜は冷えますゆえ、お早めにお部屋にお戻り下さい」



きっとミーアは気付いている。アリアナが確固たる思いであの部屋を今し方出てきた事に。










「……ごめんなさい、ミーア」



尚も罪悪感に表情を染めるアリアナからぽつり、と。小さな懺悔の言葉が落ちてゆく。

開いていた筈の二人の距離は、他でもないミーアによって縮められていた。

心配そうにアリアナを見上げるのは、未だあどけなさの残る漆黒の双眸。



「私はジョシュアを幸せにすることはできない」

「アリー様、」

「彼をこの場所に置いていくことはとても酷いことだわ。いつの日か、もしかしたらすぐにでも、後悔する日がくるかもしれない」



蜂蜜色の眸が伏せられる。唇を震わせながらも何とか本心を伝えようとするアリアナを、静かに見守るミーア。









一度雲に隠れていた月が再度顔を出し、今度こそ凜とした表情で前を向いたアリアナの横顔を照らしてゆく。



「それでも、私は好きな人のもとへ行きたい」


< 130 / 162 >

この作品をシェア

pagetop