レンダー・ユアセルフ




『……陛下の目指されるシャムス国とは、どのようなものでしょう。どういった住民が暮らす、どのような雰囲気に溢れる国なのでしょう』


――問われた瞬間。大きく、脳を揺さぶるように彼の中に動揺が走った。






確かに始めは理想像を掲げ、前へ前へと国政を進めていた筈だった。

しかしながら、いつからだったろう――いつの間にか彼自身の思いなど何処かへ消え失せ、どんな小さな決定でも王妃の顔色を窺ってばかり。




王宮内に煌びやかな財を集結するあまり、貧困に嘆く民のことなどまるで眼中になかったのではないか。

彼女は辛辣な言葉を彼に贈った訳ではない。けれど、その台詞の内に秘めた思いが幾重にも重なり強大な輪となって、彼の根幹から揺さぶりをかけたのだ。





たった一つの問いかけに答えることが出来ないまま、彼女は昏睡状態に陥ってしまった。

女中であった彼女が王宮から退いたあと、彼はこうして足繁く彼女のもとを訪れている。



「……優しく、憂いのない国をつくると約束しよう」



握っていた手に力を込め、穏やかに眸を細めて彼――シャムス国王は言う。

ゆっくりと溶かすように問いかけへの答えを告げた瞬間、彼女が少しだけ微笑んだ気がした。


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