レンダー・ユアセルフ





意図せぬうちに飛び出した叫号によって、ばたばたと使用人が駆け付けてくる足音を聞いた。

心配性な彼らのことだ。彼女の部屋の扉を開けて入ってきてしまうかもしれない。

内心冷や汗に塗れたアリアナは、割れんばかりの声で扉の向こうに言い放つ。








「大丈夫、大丈夫だから!気にしないで!心配させて申し訳ないと思ってるわ!」

「アリアナ様、御無事でいらっしゃいますか!?一体なにがあったのです!」

「え、ええと、そうね…虫!虫がいたのよ!だから少し驚いてしまって、」

「大変でございます!今すぐ私どもが退治いたしますゆえ──」

「いいの、いいのよ!命を粗末にしたらいけないわ!虫くらい、平気だもの!」








思ってもいない弁明が、立て板に水と口を衝いては出てくる。

もっともな言い分で彼らを煙に巻いたようにも見えるが、実は荒唐無稽そのものだった。




日々過ぎるほど清掃の手が行き届いている王宮内にて、そのような事が起こるはずもないからだ。それに、この事実無根な言葉によって名も知らない使用人が罰せられてしまうかもしれない。

王女の部屋における清掃の手を抜いたとして、最悪の場合解雇されてしまう。

途中でその事実に気付いたアリアナは、すかさずこう付け加えた。








「私が窓を開けたら、入ってきてしまったの!だから大丈夫よ、自分で何とかするわ!」









叫びながら自らの不運を嘆く彼女であった。できれば昨夜侵入した害虫を何とかしてしまいたかった。そう思ってしまうほど、アリアナはジーファのことが嫌いになってしまったのだ。




< 52 / 162 >

この作品をシェア

pagetop