レンダー・ユアセルフ



         ◇





「……ジョシュア、貴方…王子だったの?」

「そうだよ。シャムス王国第一王子」

「そんなこと今まで一度だって…」

「…この関係が崩れてしまうのが、嫌だったから」







切なげに眸を伏せたジョシュア。その手に握られるグラスの汗の量から見て、この場所に来てからどれだけの時間が経過していたのだろうと彼女は思う。

そしてその目的がアリアナ自身だと言うのだから、もしかすると思うように事が運ばず自棄になり酒場を訪れたのかもしれない。




いくら王子たる人間の来訪だからと言って、警備の厚い王宮が直ぐに彼を通すだろうか?

尚もこの場でとどまるジョシュアの姿が、何よりの答えのような気がしてならなかった。








「僕はアリアナを手にできるならどうなったっていい。でも、今の状況から見てそれは厳しい」

「……ジョシュア、」

「きみは僕のことを男とは見ていないでしょ?」








鋭く切り返されたその言葉に思わず息をのむアリアナ。先触れ無く忽然と向けられた告白に驚きを隠せずにいる彼女は、ジョシュアの台詞に何も返すことができない。

しかしながら、彼の視点から見れば。そんなアリアナの態度こそが真実を物語っていると云っても過言では無かったのだ。




< 71 / 162 >

この作品をシェア

pagetop