レンダー・ユアセルフ

/王女の失踪





王宮内が騒然としていた。

又しても気付いたのは姉のリリアで、彼女が慌てて父王の許へ向かってすぐのこと。





今までのように彼女──アリアナの居場所を知る術もない家族は、焦燥に駆られ全家人に向け末娘の捜索を命じた。

以前同じようなケースがあったけれど、あのときはジーファが保護していたことで事なきを得た。

しかしながら今回は違う。勿論かのジーファにも訊ねたものの、答えは否。誰一人として彼女の現状を知る者が居なかったのだ。









「──…、やられたな」









予想外の展開に髪をくしゃり、乱すジーファの呟き。静謐だった真夜中の書斎にそれは溶け込むものの、滞在するチューリア王宮は一転して喧騒に呑まれていた。

大勢の人間は何かの事件に巻き込まれたのではと考えているようだったが、ジーファだけは違う。十中八九、彼女自身の意思で逃げ出したのだと覚った。




小さく浮かぶ照明が彼の金髪を柔に照らしだしていた。水晶のごとくサファイアの眸は悔しげに眇められ、過去における自らの行いを悔いていることが容易に窺い知れる。

あのとき、あんな嘘を吐かなければ。彼女は逃げだそうとも思わなかったかもしれない。










『僕はあの夜、きみの純潔を奪った』










……あのような嘘を、吐かなければ。

もしかしたら彼女は今頃ジーファに心から打ち解けていて、彼女本来の笑顔で語りかけてくれていたかもしれないのだ。




しかし悔いてばかり居ても仕方のないことだ。

一度大きく息を吐き出したジーファは、思い当りのある場所へ向かうべく──あの日ふたりが出逢う切っ掛けとなった酒場近くの小路のことだ──上着を羽織り、静かな部屋を飛び出した。




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