レンダー・ユアセルフ






彼の臣下の青年の立場はよく理解しているつもりだ。しかしながら、このような非常な事態に直面し平静を失っていたジーファからして見れば、何故アリアナを簡単に逃してしまったのかと激昂の気持ちが湧き出てくることもまた事実。







「それで、お前はやすやすと二人を見逃したと。そう言いたいのか?」







こんなにも焦燥に駆られ全力で駆けてきたジーファに反し、酒場で彼らのやり取りを注視していたに過ぎない彼の右腕の部下。

静かな怒りを潜ませて睨み据える視線を受けた、ユースヒトリが他国に誇る軍の総司令を一任されている青年は慌てて頭《かぶり》を振った。







「いや、まさか!彼らの足取りは既に手中です」

「……と言うと?」

「私の下の者に尾行をさせておりますゆえ、その点は抜かり無く…」








弁舌の限りを尽くすかの青年は、自らの雇い主である王子を見上げながら珍しいことに瞠目していた。

戦場ではどんな苦境に立たされていようと、まるで顔面に出さないことで定評のある主なのだ。まさか女一人が絡むことでこのような表情を形作るなど、今までの姿からは想像も付かないことである。








「…殿下…」

「なんだ?」








煩わしいとでも言いたげに目を眇め見下ろしてくる美丈夫。






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