月夜の砂漠に一つ星煌めく
その時の衝撃は、一生忘れる事はないだろう。

「俺は……父上の……敵の……子供?……」

目の前で、全てが壊れたのを見た。

「うわああ、うわああああああ!!」

「ジャラール様!お気を確かに!」

後ろで聞いていたハーキムが、後ろから俺を、抱き抱えてくれた。


「そんな!だったらなぜ!俺はこの世にいるのだ!なぜ生きているのだ!!」

「それは、あなた様のお命を、マリエフ様が乞われたからでございます!」

女中は俺の頬を、両手で包み込んだ。

「何があっても、死んではいけません。あなた様は、マリエフ様が、この世に生きた証なのです!」

「うっ……うううう……」

涙が止まらなかった。

恐らく、死ぬ程泣いたのは、この時が最初で最後だろう。


「だったらせめて……そなたの名前を、教えてくれ……」

「いけません。王子の女中は、皆、名前を告げてはいけないのです。」

そうだったんだ。

俺は知るべき人の名を、何一つ知らずに、ここまで生きてしまったんだ。
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