【完】さつきあめ〜2nd〜

「いや、それは僕にも分からないよ。
結局有明くんの父親は、自分の仕事のために今の奥さんと結婚して、有明くんと綾ちゃんを授かったわけだけど
2人共その生活が幸せだったかは分からないと言っていたし
もしも宮沢くんの母親を選んでいたとしても、そこに望む幸せがあったかなんて、分からないしね。

けれどね、宮沢くんはよく父親に引き取られた時の話をするんだ」

母親が亡くなって、幼い朝日は光の両親の元へ引き取られた。

「お母さんが亡くなって名前もよく知らない親戚の家をたらい回しにされて、ろくにご飯も与えられなくて教育も受けさせて貰えない。そんな環境の中で、初めて有明くんの家に引き取られて、生まれて初めて見た事のないような大きな屋敷に連れられて、生まれて初めて光りを見たんだって」

「ひかり……?」

「大きな屋敷で、自分より少し大きな男の子がいて
綺麗な服を着ていて、その男の子を太陽の光りが照らしていて、眩いほどにその姿に惹かれて目を奪われたって言ってたよ
あの光景がずっと忘れられないって」

「その男の子って…」

「そうだね、有明くんだね」

欲しくて欲しくて、ずっと与えれなくて
まるで暗い海の底にいるような気持ちだった。
けれど、その場所にも底なんてどこにも見当たらなくて、それはどこまでも続く黒で、孤独。
孤独が包み込む幼い子供が、初めて見つけた眩しい程の希望。
悲しい過去を持った2人が惹かれ合うように出会ってしまった。
それは対称的で、光と影のようなふたりだった。

光の前を行く朝日が光りの存在だと誰もが思っていた。
けれど、あなたにとっての光りの存在は、その日からずっと、光、ただひとりだったのね。

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