【完】さつきあめ〜2nd〜
想い出の日はいつも雨の中で、大好きだった人との初めての出会いも雨の中だった。

「どぉしたの?」

座り込むわたしの顔を覗き込んだのは、幼いさーちゃんで、彼女は小さい体に大きな大人用の傘をさしていて、それをわたしの頭の上にさした。

笑うと泣き顔になるさーちゃんの悲しそうな笑顔は、この頃から雨がよく似合った。

さーちゃんと知り合って、同い年の友達がいなかったわたしはよくさーちゃんと遊ぶようになった。
1回それが母親に見つかって、叱られた事があった。
大人の話を断片的な部分だけならば、子供は理解出来る。

わたしが住んでいた一軒家の住宅街の外れに、小さな市営住宅が連なって建っている場所があった。さーちゃんはそこで母親と2人で暮らしていた。

片親なんて今時珍しい話ではなかったけれど、小さな田舎町の小さなスナックに勤める彼女の母親をわたしの母親は例のごとく良くは思わなかったし、さーちゃん自身も差別的な目で見ていた気がする。

会ったばかりの頃、小笠原も水商売をやっている子は家庭環境が複雑な子が多い、と言っていた。
朝日や光たち、そしてさーちゃんも。
夜遅くに大人用の傘を持って夜道を歩いていたさーちゃんは、お母さんによく家から追い出されるといつもの笑顔を見せてよく言っていた。
幼い頃のさーちゃんは確かに同い年の子達と比べると貧相で、そしてボロボロの洋服を着ていた。
それでも中学に上がる頃には持ち前の美しさから、周りから一目置かれる存在になっていたし、家にも帰らなくなって、年上の少し悪そうな彼氏の家に入り浸っていた。
そんなさーちゃんをやっぱり母親は快くは思わなかったけれど、出会ってからずっとさーちゃんは変わらずに優しくわたしに接してくれるたったひとりの人だった。

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