【完】さつきあめ〜2nd〜

’さくら’と名前を出したら
朝日の表情が一瞬曇ったような気がした。

「俺はさくらの気持ち結局なんも分からないままだったんだよなぁー…。
生きていたらなんて、今になったら想像もつかないし、俺さ、あいつが死んだ時、あいつを恨んだんだ」

「恨んだ?」

「お前もかって。悲しい気持ちより恨む気持ちの方がずっと強かった。
でも自分を責める気持ちはもっと強かったけどね。
お前も、俺を置いていくのかって。母親みたいに、俺をひとりにするんだなって。結局同じだったんだなって。
あいつも全然夜の人間ぽくなくってさ。なくした母親の面影をいつも女に重ねていたような気がするけど、あいつへの想いは人一倍強かった気がする。
そのくらい、あいつも優しい人間だった…」

「さくらさんは優しかったんじゃなくて、それだけ朝日の事を好きだったんだよ」

「さぁね。それどころか俺を恨んでたと思うけど。
結局光と一緒にいたら、あいつは相応の幸せな人生を送っていただろうから」

「そんな事ないよ………」

光から聞いた、さくらさんが自殺した本当の理由。
けれどわたしがそれを口にしたところで、朝日はそれを信じないだろう。

この人の心の奥にある、本当の傷をわたしは癒してあげる事が出来るのだろうか。

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