私たちの六年目
「なぁ。あんた、ここへ何しに来た?」


「な、何しにって」


「菜穂さんに会って、一体何を言うつもりだったんだよ」


「そ、れは……」


そう呟いて、僕のことをせつなそうに見つめる彼。


その顔に、ちょっとドキッとした。


やたら綺麗な顔立ちをしている秀哉さん。


これだけかっこよかったら、菜穂さんが一目惚れした気持ちはわからないでもないけど……。


「謝ろうと思って……」


謝る?


「謝るって、何を?」


梨華さんと自分が、くっついてしまったこと?


「今までのこと、全部……。

俺……、菜穂が俺のことを好きだなんて、全然気づいてなかったんだ。

それなのに……。

梨華のことで、ずっと話を聞いてもらってたし。

知らずに沢山傷つけたこと、謝りたくて……」


まぁ……。


それは、菜穂さんにも原因があるんだ。


秀哉さんに、好きだと伝えていなかったから。


だけど……。


「それって、どうなんだろうな。

謝れば、あんたの気は済むかもしれない。

でも……、菜穂さんは今必死にあんたを忘れようとしてるんだ。

それなのに、あんたに会いに来られたんじゃ。

余計に苦しくなると思わないか?」
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