私たちの六年目
私がこんな大胆なことを言うなんて。


今日の私は、どうかしている。


きっとこんな格好をしているからだ。


魔法にでもかかったような気分になっているんだろう。


でも、現実は……。


「そんなこと出来ないでしょう?

だったら失いたくないとか、そんな言葉を口に出して言わないで。

そんなことを言われると、どうしたって期待しちゃうから……」


もう疲れたの。


秀哉に振り回されるのは……。


「いいよ……」


「え……?」


「逃げてもいいよ……」


「秀哉?」


一体何を言ってるの?


うつむいているせいで、秀哉の表情が全く読み取れない。


「どうしたの?」


今日の秀哉、なんか変じゃない?


顔色が悪いのもそうだし。


やっぱり何かあったんじゃ……。


秀哉が、ゆっくりと顔を上げる。


少し長い前髪の隙間から見えた秀哉の目は、いつになく色気を含んでいて。


ドキッと心臓が跳ねた。


「菜穂。俺と、行く……?」


秀哉の言葉に、頭の中が真っ白になった。


しばらくその場に立ち尽くしていた私だったけど。


そのうち沸々と、煮えたぎるような強い怒りが身体の内側からこみ上げて来た。
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