私たちの六年目




「え……? 今なんて言った?」


梨華の部屋に着いた俺に、梨華がいきなり耳を疑うようなことを言った。


「今言った通りよ。

私、今月末で仕事を辞めるって上司に伝えて来た」


「辞めるって……。

好きでやってた仕事だろう?

辞めるなんてもったいないよ。

今はつわりでしんどいかもしれないけど、いつかは楽になるはずだし。

ギリギリまで続けて、産休と育児休暇をもらえばいいのに」


就職活動を頑張っていた梨華を、俺はよく知っている。


それを、あっさり辞めるだなんて。


「確かに仕事自体は好きなんだけど。

実は、職場の人間関係が嫌って言うか……。

気の合う人がいなくて……」


梨華の職場に女性が多いのは知っていたけど。


仲が良い人がいないなんて初耳だ。


「でも、仕事なんてそんなものだろう?

遊びに行ってるわけじゃないんだし」


好きな仕事だけど、人間関係が良くない。


仕事はきついけど、人間関係が良い。


世の中には色んなパターンの職場があると思う。


好きな仕事に就けたんだから、多少の我慢は必要なんじゃないのか……?
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