一昔前の、中学生活

第七節 友情強化?

しばらくして集合時間になり、みんなが集まってきた。

優と清和さんのペアは、何やら親しげに話しながら戻ってきた。


「小春、楽しかった?」

優と熱く語っていた清和さんに梨々が訪ねた。

「うん!あのね、優くんったら本当にスポーツ万能で。見てるだけでも楽しかったわ!今はね、二人してボーリングのピンを倒せる数の確率について話し合ってたの。」

「えっ...ボーリングの...ピンの...確率!?」

「そうよ!一人何回投げた時に、何本倒れるのか、って計算よ!」

目を輝かせながら言った清和さんは実に楽しそうだ。
しかし、俺と梨々は頭の上に明らかにクエスチョンマークを浮かべている。

「まあ、普通はこんなことなかなか考えないからな。意味がわからないのも無理がない。」

優が短いため息をつきながら言う。


確かに優は昔からかなりの理数系の頭脳の持ち主で、何かとすぐに計算したがる癖がある。

そしてその計算がどんなに難解なものでも、割と簡単に答えが出せてしまうのが優の凄いところである。

どちらかというと文系脳の俺には、難しい話題であることが多いけど、普段余り感情を表に出さない優がとても楽しそうにする瞬間でもあるので、俺は計算を解いて楽しんでいる優を見るのが好きだ。


「えっと....多分だけど、一人の人が一回ボールを投げても、ピンが倒れる確率は0から10まで全部同じじゃないのかな?」


優と清和さんの会話の話題を知った梨々は、しばらく何か考え事をしてからそう言った。


きっと、優とお話がしたくて自分から会話に入っていったんだ。

そんな梨々の姿が、とても健気に思えて、つい口元が緩んでしまった。


「そうよ。梨々の言うとおり。でも、皆が皆おんなじ技量の持ち主ではない訳で......」


梨々の言葉に、清和さんが答える。

それをきっかけに、優、梨々、清和さんの三人の中で崇高な、ハイレベルな数学の世界が繰り広げられる。

そういえば、梨々も理数科目が得意だ、って入学テストの後に言ってたな...


三人の楽しそうな会話を意味は解らずともぼんやりと聞いていたら、瑠千亜と五郎が帰ってきた。


「だから俺は地に足を着けて歩かぬ者などロクな事はないと言ったはずだ。」

「だからそれとこれとは別だと言ったはずだ!何で遊びを遊びとして楽しめないかな~こいつは....」


何やら言い合っている様子だ。


「おかえり、瑠千亜、五郎!えっと...どうかしたの?」

「どうかしたの、じゃねーよ!聞けよ隼!こいつ、ローラースケートめっちゃくちゃ下手くそなの!」

「下手くそなのではない。俺はあのような歩行の仕方を認めていないだけだ。」

「いいからお前は黙ってろよ!.....そんでな、こいつ何回も転ぶもんだから、俺が滑り方教えてやるって言ってんのに、今度は意地張ってローラースケート自体を否定しだすんだぜ!?いくら自分が苦手だからって、その存在自体を否定しなくても良くねーか!?」

「苦手だからではない。俺は元々認めとらんぞ。」

「あーもう、うるせー!!!」

どうやら瑠千亜と五郎はローラースケートをきっかけに喧嘩をしているらしい。

...でもよく見ると、本気の喧嘩というより.......

「なんだ、二人共仲良くなってきてるじゃない」

二人の様子を見た清和さんがそう言った。

「どっちも頑固なだけだろ。どっちかが折れるまで言い合えるってのも仲良くないとできないぞ。」

「梨々もそう思うー!!!だって瑠千亜くんは、五郎くんにローラースケート教えようとしてあげてたんでしょ!?それって仲良しじゃん!」

清和さんに続けて優と梨々が言った。


俺も正直言って、三人に同意だ。

何だかんだ、瑠千亜と五郎は仲がいいような気がする.....

「ふん。だいたい、せっかくのデートスポットで男と二人きりで90分も遊び、挙句の果てに仲良くなったなどと言われるとはな.....今日はきっと厄日なのだな。」

「んだとこらっ!俺だって、何が楽しくてお前みたいな女好きヤローと二人で遊ばなきゃいけねーんだか!」

「むっ、女好きヤローとは頂けないな。.....全く。このポジションを優と変わりたいくらいだな。」

「いや、優が俺とペアになっても意味ねーだろ。優は別に特定の人を想ってる訳で.......」

「口を慎め瑠千亜に五郎。でないと金輪際このメンバーでの遊びには応じないぞ。」


瑠千亜と五郎の言い合いにまた優雅突然出てきた。

やはり、何度聞いてもよくこの真意が掴めないな........

「....いつも思ってたんだけどさー、どうして五郎くんが優くんのお話すると優くんが怒るのー?」

俺の疑問を梨々が訪ねた。

梨々も、このやり取りを気になっていたみたいだ。

「あれっ、あんた気づいてなかったの?」

「気づかなくてもいいんだぞ。」

「こんだけ分かりやすくて気づかないとか、優クンが愛してやまない誰かさんと同レベルの鈍感っ子だな!」

「梨々さんを愚弄するか瑠千亜ぁぁぁ!女子はな、少々鈍感でも可愛らしいものではないか。
勿論、小春さんのように鋭い観察眼を持った女性も素敵であるがな。」

「あー、フォロー忘れないあたりさすがだわ。朱雀くんありがと。」

「瑠千亜、さっきの発言は国罪並に罪が重いぞ。覚えとけ。」

「ひっ!」


清和さんに始まった優、瑠千亜、五郎の会話が全く理解できない。

隣では梨々も同じように首を傾げている。


でも一つ、気になる発言があった。

瑠千亜の、「優クンが愛してやまない」誰かのことだ。

優とは、今まで恋愛話をしたことがないから分からなかったが、優にも好きな人がいるのだろうか......?

そして、それを聞いた梨々は、どう思っているのだろうか........


「あーもうほら、2人ともわけわからな過ぎて固まっちゃったわよ。
とにかく、この二人がこんだけ鈍感なら、べつにどの方面にも影響は出ないじゃない。ね?」

「ね?、と言われても.....」

「まあ隼が気づかないのは好都合な訳で....」

「それ以上言ったらマジで今後一切お前の呼びかけに無視し続け、存在を俺の中から抹消してやるぞ。」


五郎の発言に優が見たこともないほどの凄い剣幕で言った。

「あの....俺が気づかない方がいいって言うのは....」

「あーもうほら!お前のせいで色々散らかったじゃねーか!隼も気にし出したしよ!」

「しかし少しは揺さぶりを掛けても...」

「いいから!片付けるの俺らなんだぞ!お前これ以上優を怒らせてみろ!しらねーからな!」

「まあ、隼くんはだんだん気づいていけばいいわ。今は焦って知ろうとしなくても大丈夫。」

「.....そっか.....分かった。優が話してもいいって思った時まで待つよ」

「さすがっ!優しいわね!」


清和さんに諭されて今は優について知ることを諦めた。

優なら、時を見ていずれ話してくれるだろうから.....

まだ話したくない、知られたくないって時に無理やり聞き出すのは優を傷つけることになるしね。

それに、みんな気づいてることに気づけないのは、瑠千亜や五郎が言うとおり、俺が恋愛面では鈍感なせいだから....

優はそれを知った上で隠しているのだから、きっとまだ知られたくないのだろう。



でも.....

「えー、梨々は気になるのになぁ」

ぷう、と頬を膨らまして拗ねたように梨々が言う。


そうだろう。

自分の好きな人の、恋愛絡みっぽい話なんだ。
気にならないはずがない。

「梨々もいずれ分かるわ。....まあ、どうしても知りたければ直接優くんに聞いてもいいだろうけど....」

「聞かれたところで教えるとは言ってないぞ。」

「.....じゃあ梨々も隼くんみたいに時に任せて待つことにする。」

「そう。頑張ってね2人とも!」

「頑張らなくてもいい。」

清和さんの言葉にすかさず優がツッコむ。

梨々はまだ少し不満そうだが、焦らないようにしようとしたのか、グッと堪えてるのが分かる。


恋する.....

優に恋する梨々は、本当に健気で懸命だ。


こんな風に思われている優を羨ましくは思うけれど、それよりもやはり、梨々の様子は応援したい、と素直に思わせるものだった。



好きだからこそ......

好きだからこそ、梨々には笑ってほしいし、幸せになってほしい。


だって....

「あのっ...優くんっ!あのね...今日、せっかくだから一緒に帰らない?」


梨々が唐突に優に言った。

驚いて振り向く優の視線を、じっと見返す梨々の瞳は、真っ黒で....真っ直ぐで....心なしか少し潤んでいて.....


俺が何をすることも無く、梨々は自ら行動を起こした。


勇気を振り絞って、優を誘った。


そしてその手が震えていたのを見てしまったから........



「そうだよ、折角の機会だし、家の方向も同じでしょ?時間もだいぶ遅いし...だから優、今日は梨々さんと帰ってあげて?」


咄嗟に優に催促してしまう。


優を一途に想う梨々が、あまりにも健気で、素直で、.......可愛いと思ってしまったから。
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