一昔前の、中学生活

第十七節 恋愛は市場主義

※五郎side※


多少ズルくとも、卑怯であろうとも、恋愛においては早い者勝ちである。


これは俺が常に意識してきたことだ。

恋愛というものは、人の本能的な段階での感情のぶつかり合いだ。

自己愛の延長とも言うが、いかに自己中心的でいられるかがその恋愛を成就させるか否にかかっているだろう。


しかし、それは決して相手を傷つけたり、自分の都合を押し付けるだけであったりしてはいけない。

自己愛の延長であるからこそ、相手には何かしらの得をしてもらわねば、話が合わない。


つまり、かならず自分と付き合うことに意味を見出させるようこちらが努力を怠ってはいけないのだ。


それは付き合う前から必要なことである。むしろ、付き合う前にこそ意識せねばならぬ部分である。



今回も当てはまるだろう。


梨々さんを好きなのは俺だけではない。

しかもそのことに気づいているのは俺の方だけで、相手方は気づいておらぬ。

しかしそこを利用しない手はなかろう。

いくら友といえども、ここは知ったもの勝ちだ。わざわざ宣戦布告などしない。


そして梨々さんが想う相手が誰であるかも俺は知っている。


しかしそこで遠慮するようでは、自分の気持ちが何にもならずにただの苦く淡い感情の忘れ物になってしまう。

俺はそんな人生の浪費はしたくない。

だから、多少強引にでも、俺と結びついたほうがメリットがあるということを何度も言い聞かせ、相手の意識下に置くのだ。

それには多少時間がかかるが、それで万一失敗したとしても、何もせずにただ振られてしまった時よりも時間の無駄にはなるまい。


兎にも角にも、俺は自己愛と止まらぬ感情に忠実に行かせてもらおう。



「梨々さん、聞きたいか?優の秘密。」


ひっそりと耳打ちをして再び問いかける。

梨々さんの顔がほんのりと朱くなっていくのがわかる。


「きょっ、興味はあるけど、それ梨々が勝手に知っちゃってもいいの?」


明らかに照れ隠しのように両手で頬を抑えながら俺に聞く。

本当に、貴方はどこまで素直なのだ。


頬が熱いですと自ら公言しているような行動を取っているぞ。


「梨々さんが知りたいと思うなら、知ってもいいのではないか?どちらにせよ、聞くか聞かぬかは任せるぞ。」



少し悪戯な笑みを見せてそう答える。


もはや聞くまでもない。知りたくないわけが無いのだから。




「梨々、聞いてもいいなら、、、聞きたいなぁ、、、」


この世の3大美景観にでも入れたいくらいの可愛らしい表情で小声でそう言った。


ああ、ぜひこの照れ顔を独占したいものだ。



「そうか。では一つ、教えてやろう。」
「、、、、優の好きな人はな、、、、、男なのだよ、、、」




言葉一つ一つに重みを持たせるように、ゆっくりと耳元で呟いた。


驚きのあまりか、固まる梨々さん。

それもそのはずだな。自分が恋い焦がれている相手が、まさかゲイだなんて。


「え、、、」



しばらく固まったままだった梨々さんが、顔の表情を変えぬまま掠れた声を絞り出した。



「そっ、、、そうなんだ、、、それは知らなかったな~」

「そうだろう。意外であるからな。」

「そうだね、うん、意外だね、、、」

「しかもその男は幼なじみの奴らしい」

「あ、そうなんだ、、、幼なじみだったら、確かに昔からよく知ってるだろうからね、、、」



あからさまに放心状態のまま言葉を返す梨々さんは、正直見ていられないほど可哀想なものである。

しかし、ここを乗り越えねば、俺の想いは叶わぬものとなってしまう。

俺とて、楽しんで好きな人を傷つけている訳がなかろう。


現に心が痛くて仕方ない、、、



「ビックリしたかもしれぬが、優は多分そのことについて聞かれるのが嫌だと思う。だから、もし何か聞きたいことなどがあれば、俺を通して聞いてくれ。俺になら、きっと優も話してくれるさ。」


最早ショックすぎてなのか、梨々さんは俺に気持ちがバレているということに関しては特段突っ込んでこない。

それをいいことに、俺はさりげなく秘密の共有という形で会話のきっかけを取り付ける。



「うん、、、そうだね、そうするね、、、」
「うむ。遠慮はいらぬぞ。」


こうして相談相手のポジションまで漕ぎ着けつつ傷心中の梨々さんを慰められれば俺にもチャンスはあろう。



悪いが隼。

お前には、テニスでは負けようが、恋愛では絶対に負けるわけにはいかぬ。
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