ロスト・ラブ


「あ、茜ちゃんっ」


無意識に黙りこくってしまっていた私に、胡桃は相変わらず涙目で私の名前を呼んだ。


「や、柳くんにはああ言われたけど、これだけは言わせて。胡桃が柳くんに抱きしめられたなんてこと、絶対にないから」

「え……?」


涙目で訴える胡桃のその言葉に、嘘は感じられない。


本当は何があったのかはわからない。

でも、これ以上胡桃に詳細は聞けなかった。


心なしかホッとしてしまっている自分がなんだか恥ずかしい。


「ねぇ、茜ちゃん」

「うん?」

「……ううん、やっぱりなんでもない」

「えー、なにそれ」


ヘラッと笑った胡桃に少し違和感はあった。

けど、胡桃が言葉を飲み込んでくれたように、私も胡桃に「話して」とは言えない。


< 120 / 285 >

この作品をシェア

pagetop