恋かもしれない
囁きかけるように言う松崎さんは男性なのに妙に色っぽくて、なんだか切なそうに見える。

胸がきゅうぅっと締め付けられて、体がふわりと浮く感覚がする。

「俺の後について、言って。いい?」

「は、はい」

発音をする私の口元を見つめてくる瞳は少し潤んでいて、それが、何故だかだんだんゆっくり近づいてくる。

唇に息がかかりそうに近くて、心臓の音が聞こえてしまいそうだ。

男女含めてこんな間近で人を見たことが無くて、思考回路がオーバーヒートしてしまう。

動くことも出来ずにそのままじっと見つめていると、ぱっと手が離された。

「ああ、すいません。つい。我を忘れました」

焦ったように離れていく松崎さんをぼんやりと見つめる。

私に背中を向けて頭を掻きながら、まだダメだろ、と呟いたように聞こえた。

まだ、ダメ。何が? 

熱で浮かされたようにぼーとしていると、テーブルの上をさっと片付けた松崎さんが私の前に立っていた。

「綾瀬さん、勉強はおしまいにして、食事に行きましょうか」

「今から、食事にいくんですか?」

「予約してあるんです。付き合ってください」

行きますよと促されて外に出れば、もうすっかり日が落ちていて、辺りは薄闇に染まっていた。

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