ユルトと精霊の湖

「お許しいただけるのですか?!」

わっと、小さな者達が歓声を上げる。

「……ここは良い森だ」

そう声をかけると、湖精はおそるおそる、といったように目を上げた。

「そなたの水は、人の皮を被っていてもなお、濁ってはおらぬ」

自分の子を褒められたような気分なのだろう。
湖精は、はにかんだように頬を染め、遠慮がちに微笑んだ。

「しかし、このままでは……いつまで水を守りつづけられるのか……我にもわからぬ」

今の状態を理解したのか、集った者達も、声1つ上げずに静まり返った。

「だが……その皮、すぐにでも脱ぎ捨てるなら、今回は目こぼしをやろうぞ」

絶望的な表情で王を見返した湖精は、唇を震わせ、声を絞り出すようにして訴えた。

「……我が王よ……これ、はその……脱げないのです」
「なに?理由を話せ」

王の言葉に観念したように、湖精は重い口を開いた。

「この姿は数年前……わたくしの元に流れついた人の子のものでございます」

湖精が語りだしたのは、人の子の姿を被るようになったいきさつ。

つまりは、ユルトとの、出会いについての話だった。


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