ユルトと精霊の湖

湖精の言う“あの子”が、赤子なのか、ユルトなのか……湖精自身にもよくわからないのかもしれない。

ただ、人の温もりは毒のように湖精を侵し、今や、湖精の全て支配してしまった。

乗っ取ったのは、湖精なのか、人なのか……

王は苦笑するように口元を歪め、湖精を見下ろした。

「人間とは……しぶといものだ」

「一度だけ……そう思って、そのまま湖へ戻りました。ユルトはとても驚いて……私に笑いかけてくれて……」

王の言葉が聞こえていないように、湖精は独白のように続ける。

「また会いにくる、と言いました。わたくしは、いけないと思いながらも、この姿を捨てられず……何度も繰り返して、入っている時間が長くなっていくうちに、いつしか……この殻と癒着してしまったのです」

悲しげにうなだれた湖精の肩から、花精が飛び立ち、かばうように前に出る。

「時折……その、脱ぎづらいと言い出した頃から、やめようとはしていたのです!でも、あの子が……ユルトがやって来て……」

言いづらそうに言葉を濁した花精に、湖精が手を差し伸べる。


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